清里 フォトアートミュージアムでは、写真を通して20世紀を振り返るシリーズとして「Car Culture - 20世紀写真に見る車社会」(1998年)「水俣:報道写真家・桑原史成の原点」(1999年)といった展覧会を開催してきました。20世紀最後の年には、20世紀文明の大きな原動力となり、そして姿を消した蒸気機関車を取り上げます。蒸気機関車を捉えた多くの写真の中でも、本展では、記録を超えて、強い表現力を持って作品を創ってきた日本を代表する鉄道写真家・広田尚敬とアメリカのO. ウインストン・リンクの二人の作品を紹介いたします。
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広田尚敬「フォルム」
1973年
© HIROTA Naotaka
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O.ウィンストン・リンク
「東行き急行、ウェストバージニア州、イエガー」
1956年
© O.Winston Link/Courtesy of the Artist
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ウインストン・リンク は、1955年からNorfolk & Western Railwayの撮影を始め、ディーゼル車の台頭により、1962年にすべての蒸気機関車が廃止されるまでの間、エドワード・ホッパーやノーマン・ロックウェルが描いたようなアメリカの典型的な田舎の風景に、夜間に膨大な光量のフラッシュをシンクロさせ、“非日常”の同居するイメージを創り出した作品など、代表作となる多くの作品を制作しています。蒸気機関車の大きさ、強さ、走らせることに関わるすべての作業に魅せられていたリンクは、ほぼすべての写真に周辺の住民や列車の運行に関わる人々を写し込み、蒸気機関車を愛する人々への尊厳をも同時に表現したのです。
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O.ウィンストン・リンク
「Aクラスのスイッチャーと乗務員、
ウェストバージニア州、ロアノーク」
1958年
© O.Winston Link/Courtesy of the Artist
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O.ウィンストン・リンク
「ホークスビル川の水遊び、バージニア州、ルレイ」
1956年
© O.Winston Link/Courtesy of the Artist
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そして、広田尚敬 は、1968年の初個展「蒸気機関車たち」以来、日本の鉄道写真界に新風を吹き込み“広田調”といわしめた独特の表現世界を確立しました。日本の豊かな自然の中を走る蒸気機関車の姿をまるで生き物のように描き、また、煙や鉄の塊が大胆にデフォルメされたイメージは、疾走する蒸気機関車の躍動感をシンボリックに表現しています。そして乗客の息づかいが聞こえてくるような広田の愛情に満ちた眼差しは、多くの人々の支持を得てきました。
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広田尚敬「春遊」
1973年
© HIROTA Naotaka
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広田尚敬「ハーフ ザ ムーン」
1973年
© HIROTA Naotaka
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蒸気機関車 に取り憑かれた日米の写真家たち。二人の想像力と技術力に支えられた作品約150点をどうぞご覧ください。
展覧会 初日には、広田尚敬のほか、蒸気機関車の熱烈なファンであり、1986年の国鉄の民営化の際、JRという社名を提案し"名付け親"となった環境デザイナーの泉 眞也氏、鉄道専門誌「RailMagagine」編集長の名取紀之氏によるトーク・セッションを行います。また、会期中には、広田氏によるギャラリー・トーク、クラシックカメラ・ワークショップ、デジタルカメラ・ワークショップ(撮影、講評会)などを予定しています。また、会期中、リンクの撮影風景を再現したビデオ『夜を駆け抜けた列車(Trains that Passed in the Night)』、広田尚敬撮影の最新ビデオ『Little Local Line』を上映いたします。
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