展覧会 1999年1月30日(土)〜3月14日(日)
清里フォトアートミュージアムは、収集・展示の三つの基本理念のひとつに
「永遠のプラチナ・プリント」を掲げ、古典技法のひとつである
プラチナ・プリントの収集・展示を行っています。本展は、95年7月の開館以来、
プラチナ・プリントによる作品だけで構成する初の収蔵作品展となります。
プラチナ・プリントは、文字どおり白金を用いた焼き付けの技法で、画像は
黒のしまりがよく、階調の幅が広く、耐久性がすぐれていることが特徴です。
白金の科学的安定度がきわめて高いため、現在写真を焼き付ける技法の中で
これ以上耐久性に優れた技法はないとされています。
プラチナ・プリントは鉄塩の感光性を利用し、塩化白金と鉄塩の感光液を
水彩画用紙に塗布した印画紙を乾燥させ、ネガを直接印画紙の上におき、
密着させて、紫外線に感光させます。そしてクエン酸アンモニウム液にて
現像、洗浄し、乾燥を行います。
写真が正式に誕生したのは1839年ですが、プラチナを感光に使用する試みは
銀を用いたシルバー・プリントより早く、1831年から行われていました。
しかし、プラチナ印画紙として登場するのは、1873年、イギリスの
ウィリアム・ウィリス(William Willis, 1841-1923)の発明、特許取得に
よるものです。本展では、ウィリスが、1878年、イギリスの写真協会誌
(後の王立写真協会)『ザ・フォトグラフィック・ジャーナル』
(The Photographic Journal、1878年12月13日号)において、プリントの
技法を正式に発表するために制作した作品「田舎の小屋」(Rustic Cottage)
を展示いたします。
19世紀の終わり、肖像写真を業とする商業写真スタジオが大変盛んとなり、
一方アマチュア写真家たちは、写真の”芸術”としての可能性を追求して
いました。そこへ比較的簡単にプリントができ、表面の光沢がなく、
ニュートラルな黒の美しいプリント技法が紹介されると、プラチナ・プリントは
一気に主流となります。当時、絵画により近づこうとしたピクトリアリズム
(絵画主義)のプラチナ・プリント作品がヨーロッパ・アメリカで多く作られると、
やがてそれに反発するかたちで、自然主義およびストレート・フォトグラフィの
流れが起こります。絵画により近づけた”ピクチャー”ではなく、あくまでも
”写真”であろうとしたのです。
視覚の科学的法則にのっとり新しい芸術の概念を方向づけようとした自然主義の
代表作であるP. H. エマーソン(Peter Henry Emerson、英、1856-1936 )の
『ノーフォーク湖沼の生活と風景』(Life and Landscape of the Norfolk Broads、1886年)
やフレデリック・H. エヴァンズ(Frederick H. Evans 英、1853-1943)の
ゴシック建築の美を追求した作品群などを展示いたします。
(『ノーフォーク湖沼…』はT.F.グッダルのテキストと40点の図版による。
革装の豪華本が25部、並装で75部が制作された。当館収蔵のものは革装の豪華本。)
プラチナ・プリントは1920年代まで盛んに作られましたが、第一次世界大戦の
影響でプラチナの値段が急騰したため下火となり、やがて70年代になってアメリカ
を中心に再び人気を回復し始めます。そして現在も写真材料としては高価で、
プロセスも複雑でありながら、多くの写真家がプラチナ・プリントで作品を制作しています。
それは古典技法のリバイバルという現象ではなく、微妙な色調とベルベットのような
きめの細かさを持つプラチナ・プリントを個性的な表現テクニックのひとつとして
積極的に取り入れているのです。
本展では、プラチナ・プリント発明者ウィリスによる作品から現代作家による作品まで、
全38作家による約100点を展示します。120年を経たプラチナ・プリントの変わらぬ
美しさと同時に写真史の流れを見ることができるでしょう。
また、本展覧会期間中には、2日間にわたる第二回プラチナ・プリント・ワークショップも
開催いたします。清里フォトアートミュージアムでは、今後も定期的に
プラチナ・プリント・プリントのワークショップを行います。くわしくは、当館まで
お問い合わせください。
プラチナプリント ポストカード8枚セット(1000円)
(ミュージアムショップ、オンラインショップにて取り扱っております)
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