Young Portfolio Acquisitions 2018
会期:2019年3月21日(木・祝) ~ 6月16日(日)
選考委員:川田喜久治、上田義彦、細江英公(館長)
東欧からアジア、日本まで、2018年度収蔵作品など全171点を一堂に展示
ヤング・ポートフォリオ (YP) とは、世界の若手写真家を支援するために、彼らの「原点」となる貴重な初期作品を購入・収蔵し、後世に残す活動です。毎年一度、同名の公募を行っています。
ヤング・ポートフォリオ(YP)とは、当館の理念の一つであり、「写真を通して世界の若者を支援する」ことを目的とする文化貢献活動です。毎年、世界の35歳までの若手写真家の作品を公募し、第一線の写真家による厳正な選考を経て、 若手写真家の「原点」となる貴重な初期作品を購入・収蔵し、後世に残す活動です。 選考された作品を、美術館が永久保存するという、コンテストと異なる性格を持つ本活動は、世界でも他に類をみないものです。(2004年、公益社団法人・日本写真協会より文化振興賞を受賞)
YPは、当館開館の1995年度より継続して行っており、2018年度は第24回となります。これまで世界74カ国から10,356人、133,340点の作品が応募され、そのなかから、45カ国の785人による6,105点の作品を購入いたしました。
■ なぜ35歳なのか ー 芸術における青年期の意義を問う
芸術家は、青年期に強い意志と情熱をもって試行錯誤を重ねることにより、才能・資質が高められ、作品のクオリティが磨かれます。研鑽を積んだ作家の多くは、おのずと30代には自己のスタイルを確立し、代表作となる作品を生みだしています。青年の原点とも言うべき作品が、表現の領域を開拓し、歴史を築いてきました。そこには永遠の輝きがあります。
■ YPとコンテストの違いは?
作家の世界観や芸術性を表現するポートフォリオ(作品集)となるように、 1枚だけでなく、複数の作品を収蔵することが特徴です。また、通常コンテストの入賞は1度限りですが、YPは、35歳まで何度でも応募することができます。20代から35歳まで何度も収蔵することができれば、作品の展開や作家の成長を見守り、応援することが可能となるからです。
■ 写真家の成長とともに世界へ伸展するYP?
これまで作品を収蔵してきた写真家のなかには、めざましい成長をとげ、土門拳賞や林忠彦賞、木村伊兵衛賞など内外の様々な賞を受賞する写真家が誕生し、また東京造形大学、大阪芸術大学、九州産業大学などにて、後進の育成にあたるなど、多くの優秀な写真家が誕生しています。
2014年には、東京都写真美術館にて清里フォトアートミュージアム開館20周年記念展「原点を、永遠に。」展を開催。世界34カ国の197人(YPのみ)による約500点を展示し、世界を俯瞰しながら、写真表現の多様さを展望する展覧会を行いました。さらに、芸術における青年期の意義を問うという理念を明確に表現するべく、2018年、再び東京都写真美術館において、「原点を、永遠に。ー2018ー」を開催いたしました。同展は、当館が収蔵する全写真家の青年期(35歳まで)の写真のみを展示したもので、会期前半は<歴史篇>として撮影年代順(1898年~2017年)に展示、後半は<作家篇>として、作家名をABC順に展示しました。ヤング・ポートフォリオの作品だけでなく、写真史における重要な作品を多数含むこの展覧会は、一部再構成のうえ、2018年6月、国立台湾美術館に巡回。同館の開館30周年記念特別展「起始・永遠」として開催され、成功裏に終了いたしました。
■ YPの見どころ
作品選考は、当館館長のほか、YPの理念にご賛同いただいた現役写真家2名が行います。それぞれの写真家が手がける写真のジャンルは多様ですが、表現意欲の強さ、視点の明確さなどが基準となるため、担当する選考委員によって何らかの“傾向”が生まれるということはありません。若い才能に未来を託す思いで選考し、3名の選考委員全員が合意した作品を収蔵します。特に近年応募の多いロシア、ポーランドなど東欧の国々、アジアでは中国、韓国、台湾、バングラデシュなど、世界のさまざまな地域の持つ特徴、多様な芸術性、そして、世界の若者が捉えた<いま>を俯瞰して見ることができます。
■■■■■?2018年度ヤング・ポートフォリオ(第24回)データ■■■■■
選考委員:川田喜久治、上田義彦、細江英公(館長)
作品募集期間:2018年4月15日~5月15日
応募者数:199人(世界21カ国より)
応募点数:4573点
購入者数:18人(国内9人・海外9人 / 8カ国)日本/バングラデシュ/ベラルーシ/中国/韓国/台湾/ポーランド/ロシア
購入点数:131点(全作品を展示いたします)
1995年度から2018年度までに作品を収蔵した作家の総数:785人(45カ国)6105点
■■■■■ YP2018の見どころ ■■■■■
■YP2018で作品収蔵した最年少は2001年生まれ・17歳・・・親子二代にわたる受賞者が誕生
YPは、ともすると「レベルが高く、応募を踏みとどまってしまう」という声が聞こえてくる一方で、10代からも応募があります。YP2018で作品収蔵した最年少は10代・2001年生まれで17歳(応募当時)の友長光明です。友長氏の作品について、川田喜久治選考委員も「こういう野性のままを伸ばしてほしい」とコメント。重要なのは、技術面だけではなく、写真表現にかける強い意欲、誰も見たことのない、自分ならではのイメージを提示しようと、高みを目指すエネルギー。そこに年齢は関係ないのだということが明らかとなりました。今後も多くの若い才能が集うことを期待しています。
なお、友長光明の父・友長勇介は、YPで2000、2001、2003年の3回にわたり作品を収蔵しています。YPを23年間継続して行って来たなかで、親子での 受賞という嬉しい結果が初めて生まれ、YPが“二世代”にわたった記念すべき年となりました。
■ 30年前チェルノブイリにて被爆したフィルムを使用・・・新進フォトジャーナリストの挑戦
小原一真は、従来のフォトジャーナリストとは異なるアプローチによる作品を発表している写真家です。2015年から2年間チェルノブイリ原子力発電所事故の影響を受けた女性の半生を描くプロジェクト「Exposure」に取り組んでいました。小原は、チェルノブイリから1キロ地点で、事故が起こった1986年からずっと放射能に曝されていた未使用の中判フィルムを入手。使用期限も91/92年に切れていたこのフィルムを使って、被爆の後遺症に苦しむ女性を撮影したのがこの作品です。被爆という健常者からは想像しづらい“不過視の障がい”を表現したこのプロジェクトは、世界報道写真大賞(WORLD PRESS PHOTO)2016「人々」の部の一位を受賞し、世界45カ国にて展示されました。本展では8点を展示いたします。
■同時展示:過去のYPにて収蔵した作品+3人の選考委員の初期作品各5点
先に申し上げたとおり35歳まで何度でも継続して作品を収蔵するのが、YPの大きな特徴です。実際にYP2018にて収蔵した作家全18人のうち、6人が過去のYPでも作品を収蔵しています。彼らがどのようにシリーズを発展させ、視点を深めているのかをご覧いただくため、約50点を同時に展示いたします。最新作とあわせてご覧ください。また、3人の選考委員の初期作品、すなわち“選考委員のヤング・ポートフォリオ作品”も全15点を同時に展示いたします。
■川田喜久治(日本、1933)
1955年、新潮社に入社。1959年、フリーランスとなり、細江英公、東松照明らとともに写真家のセルフエージェンシー「VIVO」に参画(1961年解散)。1965年発表の写真集『地図』は、戦中戦後の日本人の記憶と未来を示唆する作品として、全頁が観音開きというデザインとともに大きな話題を呼び、世に衝撃を与えた。その後の作品ではカタストロフィな世界を展開。1990年代以降はいち早くデジタル技術を駆使し、新たなドキュメンタリー・ヴィジョンを構築している。
■上田義彦(日本、1957)
日本を代表する広告写真家として内外の広告賞を多数受賞。同時に作家活動を行い、その作品群は国内外から高い評価を得ている。2011年より2018年まで「Gallery 916」を主宰し、企画、展示、出版をトータルでプロデュース。人物、花、家族、標本、原生林など幅広い被写体を撮影してきた35年間の写真家活動の集大成として、2015年に『A Life with Camera』 を上梓した。特に、1989年にネイティブアメリカンの聖なる森・クウィノルトにて“森”に魅了され、以来三つの太古の森の姿を30年にわたり撮影。生命の根源を見つめた『FOREST 印象と記憶 1989-2017』を2018年に上梓した。
■細江英公(日本、1933)
舞踏家・土方巽を被写体とした「鎌鼬」や、三島由紀夫を被写体とした「薔薇刑」(1963)など、特異な被写体との関係性から紡ぎ出された物語性の高い作品により戦後写真の転換期における中心的な存在となる。東京工芸大学名誉教授。1995年より当館初代館長。2003年、「生涯にわたり写真芸術に多大な貢献をした写真家」として英国王立写真協会より創立150周年記念特別勲章を受章したほか、2010年、文化功労者。2017年、写真家として初めて生前に旭日重光章を受章した。
■■■■■ YP2018作品購入作家 ■■■■■
★は過去のYPにおいても作品収蔵した作家を示します。
★indicates photographers whose work has been acquired in previous years.
1 ■K.M. アサド(バングラデシュ、1983) ★
K.M. ASAD (Bangladesh, 1983)
2 ■浅田周麻(日本、1991)
ASADA Shuma (Japan, 1991)
3 ■平野 聡(日本、1983) ★
HIRANO Satoshi (Japan, 1983)
4 ■ホアン・ユイシュ(台湾、1994)
HUANG Yu-Hsiu (Taiwan, 1994)
5 ■アリョーナ・カハノヴィチ(ポーランド/ベラルーシ、1985)
Alena KAKHANOVICH (Poland/Belarus, 1985)
6 ■キム・キュンボン(韓国、1992)
KIM Kyung Bong (Korea, 1992)
7 ■児玉和也(日本、1993)
KODAMA Kazuya (Japan, 1993)
8 ■黒石千歳(日本、1985)
KUROISHI Chitose (Japan, 1985)
9 ■イ・ジョンウン(韓国、1984)
LEE Jonghun (Korea, 1984)
10■中 悠紀(日本、1991) ★
NAKA Yuki (Japan, 1991)
11■小原一真(日本、1985)
OBARA Kazuma (Japan, 1985)
12■リュウ・イカ(中国、1994)
RYU Ika (China, 1994)
13■高島空太(日本、1988) ★
TAKASHIMA Kuta (Japan, 1988)
14■トミモとあきな(日本、1987)
TOMIMO+AKINA (Japan, 1987)
15■友長光明(日本、2001)
TOMONAGA Koumei (Japan, 2001)
16■宛超凡(中国、1991)
WAN Chaofan (China, 1991)
17■ピョートル・ズビエルスキ(ポーランド、1987)★
Piotr ZBIERSKI (Poland, 1987)
18■アリョーナ・ランダーロワ(ロシア、1988) ★
Alena ZHANDAROVA (Russia, 1988)
■■■■■関連印刷物&YPデータベース■■■■■
YP2018小冊子(A5サイズ、32ページ)
各作家の作品数点、選考委員による対談や作品へのコメントを掲載。来館者には無料で配布いたします。
YPデータベースには、過去20年余にわたる世界の若手写真家による収蔵作品画像のほか、作家略歴、アーティスト・ ステートメントを掲載しています。作家名、収蔵年、国籍などで検索することができます。 様々な調査・研究の対象としてもご利用いただければ幸いです。当館のウェブサイトwww.kmopa.com → YOUNG PORTFOLIO → YPデータベース
■■■■■YP2018公開レセプション & アーティスト・トーク■■■■■
5月25日(土) 午後2時~4時 講評:川田喜久治、上田義彦、細江英公(館長)
入館料のみ / 定員なし / 要予約 / どなたでもご参加いただけます。
会場:清里フォトアートミュージアム・エントランスホール
当日出席する作家には、作品永久保存証書を授与した後、作家自身によるトークと、3人の選考委員による講評を行います。若手写真家にとっては、第一線で活躍する選考委員から直接講評を受けられる貴重な機会となります。
■■■■■ 作品募集:2019年度ヤング・ポートフォリオ(第25回)■■■■■
今できる限りのものを見せてほしい。
今の挑戦が未来のあなたを強くする。
2019年度選考委員:川田喜久治、都築響一、細江英公(館長)
●Web登録受付期間 & 応募作品受付期間: 2019年4月15日~5月15日
●応募要項の概要・応募資格は35歳までを上限とします。(1984年1月1日以降に生まれた方)
●既発表・未発表を問いません。他のコンテストへの応募作品・受賞作品も応募可能です。
●作品の表現、技法は問いませんが、永久コレクションのため、長期保存が可能な技法であること。
●選考された作品は、1点につき3万円以上で購入します。
●詳しい応募要項は:www.kmopa.com/yp_entry
■■■■■2019年の展示■■■■■
ロバート・フランク展 ー もう一度、写真の話をしないか。
Robert Frank – Why Don’t We Talk About Photography Once Again?
会期:2019年6月29日(土)~9月23日(月・祝)
山本昌男「手中一滴」(仮題)
Yamamoto Masao: Microcosms Macrocosms
会期:2019年10月5日(土)~12月8日(日)