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2020年度ヤング・ポートフォリオ展

Young Portfolio Acquisitions 2020

会期:2021年3月20日(土)〜6月13日(日)

休館日:毎週火曜日、但し5月4日は開館、3月19日(金)までは冬季休館

開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)

■2020年度ヤング・ポートフォリオ(第26回)データ
選考委員:都築響一、金村 修、細江英公(館長)
作品募集期間:2020年4月15日~5月31日
応募者数:161人(世界16カ国より) 応募点数:3,876点
購入者数:18人(国内6人・海外12人 /6カ国)
     日本/マレーシア/中国/韓国/台湾/ポーランド/ロシア
購入点数:143点(全作品を展示いたします)
●1995年度から2020年度までに作品を収蔵した作家の総数:816人(46カ国)

 
 

「2020年度ヤング・ポートフォリオ」を年3月20日(土) ~ 6月13日(日)まで開催
東欧からアジア、日本まで、2020年度収蔵作品143点を一堂に展示
コロナ禍を越えて青年の情熱が結集

ヤング・ポートフォリオ(YP)とは、当館の理念の一つであり、「写真を通して世界の若者を支援する」ことを目的とする文化貢献活動です。毎年、世界の35歳までの若手写真家の作品を公募し、第一線の写真家による厳正な選考を経て、 若手写真家の「原点」となる貴重な初期作品を購入・収蔵し、後世に残す活動です。 選考された作品を、美術館が永久保存するという、コンテストと異なる性格を持つ本活動は、世界でも他に類をみないものです。(2004年、公益社団法人・日本写真協会より文化振興賞を受賞)
YPは、当館開館の1995年度より継続して行っており、2020年度は第26回となります。これまで世界77カ国からのべ10,681人より約14万点の作品が応募され、そのなかから、46カ国816人による6,000点を超える作品を購入いたしました。

■なぜ35歳なのか ー 芸術における青年期の意義を問う
芸術家は、青年期に強い意志と情熱をもって試行錯誤を重ねることにより、才能・資質が高められ、作品のクオリティが磨かれます。研鑽を積んだ作家の多くは、おのずと30代には自己のスタイルを確立し、代表作となる作品を生みだしています。青年の原点とも言うべき作品が、表現の領域を開拓し、歴史を築いてきました。そこには永遠の輝きがあります。

■YPとコンテストの違いは?
作家の世界観や芸術性を表現するポートフォリオ(作品集)となるように、 1枚だけでなく、複数の作品を収蔵することが特徴です。また、通常コンテストの入賞は1度限りですが、YPは、35歳まで何度でも応募することができます。20代から35歳まで何度も収蔵することができれば、作家の成長を見守り、応援することが可能となるからです。

■写真家の成長とともに世界へ伸展するYP
これまで作品を収蔵してきた写真家のなかには、めざましい成長をとげ、土門拳賞や林忠彦賞、木村伊兵衛賞など内外の様々な賞を受賞する写真家が誕生し、また東京造形大学、大阪芸術大学、九州産業大学などで、後進の育成にあたるなど、多くの優秀な写真家が誕生しています。また、当館の開館20周年を迎えた2014年以降、積極的に巡回展を開催しています。
2014年:東京都写真美術館にて開館20周年記念展「原点を、永遠に。」展を開催。世界34カ国の197人(YPのみ)の作品を展示し、世界を俯瞰しながら、写真表現の多様さを展望する展覧会(約500点)を行いました。
2018年:芸術における青年期の意義を問うという理念を明確に表現するべく、再び東京都写真美術館において、「原点を、永遠に。ー2018ー」を開催いたしました。同展は、当館が収蔵する全写真家の青年期(35歳まで)の写真のみを展示したものです。ヤング・ポートフォリオの作品だけでなく、写真史における重要な作品を多数含むこの展覧会は、一部再構成のうえ、2018年6月、国立台湾美術館に巡回。同館の開館30周年記念特別展「起始・永遠」として開催され、成功裏に終了いたしました。
2021年:2021年4月~11月、米・カリフォルニア州、サンディエゴの写真美術館Museum of Photographic Artsに巡回します。「Beginnings, Forever」と題し、19世紀末の作品から21世紀のYP作品まで153点を展示いたします。

■現役写真家が作品を選考
作品選考は、当館館長のほか、YPの理念にご賛同いただいた現役写真家2名が行います。それぞれの写真家が手がける写真のジャンルは多様ですが、表現意欲の強さ、視点の明確さなどが基準となるため、担当する選考委員によって何らかの“傾向”が生まれるということはありません。若い才能に未来を託す思いで選考し、3名の選考委員全員が合意した作品を収蔵します。特に近年応募の多いロシア、ポーランドなど東欧の国々、アジアでは中国、韓国、台湾などです。世界のさまざまな地域の特徴、多様な芸術性、そして、世界の若者が捉えた<いま>を俯瞰して見ることができます。

 
 

■2020年度ヤング・ポートフォリオ(以下YP2020)の見どころ
YP2020の作品群が制作されたのは、コロナ禍以前ですが、 ヴァーチャルなモノや世界への距離感や向き合い方が、これまでとは明らかに異なる作品が多く見られます。 私たちは日々、AIによるヴァーチャル技術や、大量の写真や映像を情報源として生活しています。その一方で、目に見えない社会的なプレッシャーのなかに生きる個々の人間の心の拠り所を考察しようとする視点が多く見られます。写真家の身体感覚を通して<いま>を考える機会となれば幸いです。

 

●“ヴァーチャル”と生きる:苅部太郎、アガタ・ヴィオチョレック(ポーランド)

苅部太郎《Saori》
“Saori“がシリコン製のラブドールであることを除けば、被写体の男性は、人間の男女と全く変わらない生活を送っています。男性には家庭がありますが、10年前からSaoriとの生活を始め、今ではSaoriが「人生を豊かにしてくれる理想の女性」となっているとのこと。
「ヴァーチャル」とは「仮想」と思われる場合が多いのですが、本来は「事実上の」「実質的な」という意味を持つ言葉です。被写体の男性は、Saoriから「生きた心」を感じる生活を送っており、Saoriの存在は、男性が生きるうえにおいて、不可欠なものとなっているのです。写真家は、Saoriとのヴァーチャルな関係に“生きる”男性の日々をあくまでも優しく捉えています。

アガタ・ヴィオチョレック《模擬妊娠実験》他
ジェンダーと性的マイノリティに関する変化をテーマとするヴィオチョレク。本シリーズは、近年の医学とハイテク産業の交差を見据えようとするものです。ヴィオチョレクが注目したのは、「人工知能、拡張現実、ハイテク科学を採用することにより、医学の研究や学びは、仮想化され、シュミレーションや仮想経験に依拠して行くのではないか。」という現状です。ヴァーチャルから知識を得ようとする傾向はむしろ強まっているのかもしれません。
人間と非人間の“境界”とは、生命の神秘や真の幸福とは何か?二人の写真家は、いくつもの根源的な問いを投げかけています。

苅部太郎《Saori》2016年(全9点)

アガタ・ヴィオチョレック《模擬妊娠実験》2019年(全7点)

 

●進化する色彩の世界:大竹彩子(日本)

大竹彩子《MITAKA6537 MURAKAMI5572》2019年

2020年度の購入者は1985年から1994年に生まれ、デジタルカメラで育ち、フォトジェニックなモノを捉える感覚が自然に培われた世代です。なかでも高いヴィジュアルセンスと美意識が充満した作品が大竹彩子の《 MITAKA6537 / MURAKAMI5572》などのシリーズでしょう。ZINEの見開きを想定して2枚のイメージをレイアウトした作品10点を収蔵いたしました。
作家の好奇心が触れた色と断片を組み合わせ、軽やかで大胆な表現領域を提示しています。
(ZINE/ジンとは、 リトルプレスとも呼ばれ、小部数で発行する自主制作の出版物。Magazineが語源)

 

●無名の路上芸術 ”ヤードアート“:前川光平(日本)

前川光平《Yard》2019年(全14点)

ピザの配達をしながら、民家の“庭”に関心を抱いた前川光平。東京・埼玉郊外の近隣の人だけが通る裏道で、また庭や畑などの私有地で、住人の独自の趣向で様々な日用品や装飾品をディスプレイした光景を、3年あまり観察して撮影しています。装飾の目的は近隣の子供に喜んでもらうことなど、あくまでも自分の趣味という人が多いとのこと。前川は一見雑然と見えるけれど、実はかなり緻密に造り上げられたこの趣向の庭(ヤード)を“ヤードアート”呼びます。日本人には馴染みの光景でありながら、これまで作品化されることのなかったヤードアートの世界。この背景には日本人の自然観やモノへの観念との関わりがあるのかもしれません。本シリーズは、本展が初公開となります。

 

●社会的意味合いから見る“女性”や“母性”をテーマに:ルー・ユーファン(中国)、アリョーナ・ランダーロワ(ロシア)

中国ではこれまで二千万人が美容整形手術を受けており、その数は増え続けています。ルー・ユーファンは、美容整形外科で「美顔デザイナー」から提案された手術プランを作品化したシリーズ〈美容外科手術診断〉の他に、手術を受けた一般女性の顔写真を、整形前の顔にパソコン内で写真家が復元し、その顔にナイフで写真に切り傷を入れた作品〈ビフォー&アフター〉を制作しています。写真家は、彼女たちへの“思い”を、その“切り傷”によって表現し、ポートレイト化した作品です。

アリョーナ・ランダーロワは、過去のYPにおいて、セルフポートレイトのシリーズを収蔵してきたロシアの作家です。多くは顔を見せないセルフポートレイトでしたが、本展では新シリーズ〈秘められた母性〉を展示いたします。
ランダーロワは、母親の役割について特に教わらず、産後うつになる女性が多いのは、「子供を産んだ途端に女性は情報と感情の真空状態に置かれるため」と言います。
多くの女性が幸せな母親という理想像と現実との間には大きな隔たりがあると感じているのでしょう。写真黎明期の19世紀ヴィクトリア時代には、顔を隠した母親と赤ん坊の写真が多く残されています。長い撮影の間、子供がじっと座っているように、母親の顔はヴェールに隠されているのです。現代においてもなお閉塞感に苦しむ女性たちへ向けたランダーロワの眼差しが、柔らかな空気感とユーモラスな表現によって描かれています。

ルー・ユーファン 《ビフォー&アフター4(わたしを綺麗にして)》2020年

《カーチャ》〈秘められた母性〉シリーズより、2019年

 
 

■YP2020作品購入作家
★は過去にもヤング・ポートフォリオで作品を収蔵した作家

Photographers whose work was acquired for the YP2019 (in alphabetical order)

1. 淵上裕太 FUCHIKAMI Yuta(Japan、1987)

《【池袋・プチ】と検索し出会った、りあさん 池袋2020》2020
‘Ria, who ‘Ikebukuro Puchi’ met through a computer search. Ikebukuro 2020

 

2. 井上麻由美 INOUE Mayumi(Japan、1988)

《癌と髪 -Guy #1》2019
Cancer and Hair -Guy #1, 2019

 

3. 苅部太郎 KARIBE Taro(Japan、1988)

《Saori》2016
Saori, 2016

 

4. キム・ギュンユン KIM Kyoung Yoon(Korea、1989)

《タルドンネ》2017
DALDONGNE, 2017

 

5. キム・ネーヨン KIM Nayoen(Korea、1994)

《肉体の地形図_#09》2019
body topographic map_#09, 2019

 

6. クウォン・ロックァン KWON Rokhwan(Korea、1993)

《サミット、#018、2018》
The Summit, #018, 2018

 

7. リー・イーチェン LEE Yi-Chen(Taiwan、1988)

《拡大》2020
Magnified, 2020

 

8. リ・ユーチー LI Yu-Chi(Taiwan、1986)

Raw #02, 2019

 

9. ルー・イーシン LU Lixing(China、1993)

《外出#3》2020
Outing #3, 2020

 

10. ルー・ユーファン LU Yufan(China、1991)

《ビフォー&アフター4(わたしを綺麗にして)》2020
Before & After 4 (Make Me Beautiful), 2020

 

11. 前川光平 MAEKAWA Kohei(Japan、1993)

《Yard》2019

 

12. 七海 愛 NANAMI Chica(Japan、1986)

《おやすみうた from yellow》2013
Lullaby, 2013

 

13. 大竹彩子 OTAKE Saiko(Japan、1988)

《MITAKA6494 / BASEL8375》2019

 

14. ポン・イーハン PENG Yi-Hang(Taiwan、1992)

Picnic, 2018

 

15. ミハル・シャレク Michal SIAREK(Poland、1991)

《マケドニア闘争博物館に雇われた若者
マケドニア闘争博物館は国家としてのマケドニアが世界史から忘れられている現状を正すことを目的とする。毎年の夏、博物館は若者を雇い、マケドニア史上の様々な時代衣裳を着けさせる。青年たちに少し話を聞いてみたところ、自分の扮装がローマ時代の第五マケドニア軍団の兵士か、ピリッポス 2世の時代の歩兵か、あるいは両者のいりまじる人気の兵隊かはどうでもよく、つまるところ、夏の間のアルバイトにすぎないのだった。スコピエにて》 
〈アレクサンドロス〉シリーズより、2013
A boy hired by The Museum of the Macedonian Struggle: The Museum of the Macedonian Struggle was an institution that sought to redress the historical neglect of the Macedonian nation. Every summer, it hired youngsters who dressed in costumes from different periods of Macedonian history. A brief conversation concludes that the teenagers have no interest in whether they are role- playing the Roman V Legio Macedonica, soldiers in a Macedonian phalanx or a popular mixture of both — after all, it’s a summer job. Skopje, 2013
From series “Alexander”

 

16. アガタ・ヴィオチョレック Agata WIECZOREK(Poland、1992)

《自動人形》2019
Automaton, 2019

 

17.  ピョートル・ズビエルスキ Piotr ZBIERSKI(ポーランド、1987)

《無題》〈木霊・翳〉シリーズより、2018
Untitled from Echoes Shades series, 2018

 

18. アリョーナ・ランダーロワ Alena ZHANDAROVA(Russia、1988)

《小球体のついたセルフ・ポートレート》 〈三角味のピュレー〉シリーズより、2013
“Self-portrait with globules” from the series “Puree with a taste of Triangles”, 2013

 
 
 

【同時展示】3人の選考委員の初期作品

3人の選考委員の初期作品、すなわち“選考委員のヤング・ポートフォリオ”作品(全14点)を同時に展示いたします。

選考風景。左から2020年度YP選考委員・金村 修氏、都築響一氏、細江英公館長

 

都築響一(日本、1956-)
本展出品作品《TOKYO STYLE》1993年
「POPEYE」「BRUTUS」誌などで雑誌編集者として活躍後、1993年、東京の人々の生活空間捉えた『TOKYO STYLE』を発表。写真家としての活動を始める。日本各地に点在する秘宝館や奇妙な新興名所を撮影した『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で第23回木村伊兵衛賞受賞。暴走族、デコトラ、パワフルな高齢者など無名の人々への取材を通して、現代の日本を描く。2012年からは、他のメディアとは全く異なる視点から、好奇心の赴くままに取材し、発信する有料メールマガジン『ROADSIDERS’ Weekly』を刊行中。

 


金村 修(日本、1964-)
本展出品作品《Today’s Japan/本日の日本》1995年
東京綜合写真専門学校在学中、新聞配達のアルバイトをしながら都市の風景を撮り始める。在学中に招待されたロッテルダム写真ビエンナーレを皮切りに内外にて発表活動を行う。1996年、世界の注目される6人の写真家のひとりに選ばれ、ニューヨーク近代美術館の「New Photography 12」に出品。日本写真協会新人賞、土門拳賞など受賞多数。近年は、カラー作品やインスタレーション、映像作品など幅広い展開を見せている。

 


細江英公(日本、1933-)
本展出品作品《おとこと女》1960年
舞踏家・土方巽を被写体とした「鎌鼬」や、三島由紀夫を被写体とした「薔薇刑」(1963)など、特異な被写体との関係性から紡ぎ出された物語性の高い作品により戦後写真の転換期における中心的な存在となる。東京工芸大学名誉教授。1995年より当館初代館長。2003年、「生涯にわたり写真芸術に多大な貢献をした写真家」として英国王立写真協会より創立150周年記念特別勲章を受章したほか、2010年、文化功労者。2017年、写真家として初めて生前に旭日重光章を受章した。

 
 
 
 

2021年度ヤング・ポートフォリオ(第27回)

2021年度選考委員:瀬戸正人、アントワン・ダガタ、金村 修、細江英公(館長)

【重要なお知らせ】応募方法が大きく変わります!
★一次はデータ選考、二次はプリント選考
★応募時期が例年より早まります。2月15日から3月15日必着

①一次選考「画像データ・エントリー」:2月15日~3月15日必着

②一次選考の結果発表:4月10日頃
・一次選考通過者名の作品1点と作家名を、当館ウエブサイト内YPサイトにて公開します。

③二次選考「プリント・エントリー」:5月31日必着
●Web登録受付期間 & 応募作品受付期間:2021年2月15日~3月15日

応募要項の概要
・応募資格は35歳までを上限とします。(1986年1月1日以降に生まれた方)
・既発表・未発表を問いません。他のコンテストへの応募作品・受賞作品も応募可能です。
・作品の表現、技法は問いませんが、永久コレクションのため、長期保存が可能な技法であること。
・ご応募は最大50点まで受け付けます。
・選考された作品は、1点につき3万円以上で購入します。

*詳細および募集要項は www.kmopa.com/yp_entry

 

【2021年度選考委員】 金村 修氏、細江英公(館長) の略歴は【同時展示】をご覧ください


瀬戸正人(タイ/日本、1953-)
1953年、タイ国ウドーンタニ市に生まれ、1961年、父の故郷、福島県に移り住む。1975年、東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。在学中、森山大道氏に大きな影響を受ける。森山氏の紹介で岡田正洋事務所に勤務し、コマーシャル撮影を学ぶ。深瀬昌久氏の助手を務めたのち独立。1983年、「Bangkok 1983」にて初個展。1987年、自らの発表の場としてギャラリー「PLACE M」を開設し、現在も運営中。「夜のワークショップ」を開催し、後進の指導にあたっている。『《バンコク、ハノイ》1982-1987』で日本写真協会新人賞、〈Silent Mode〉と〈Living Room Tokyo 1989-1994〉で第21回木村伊兵衛写真賞受賞。自伝エッセイ『トオイと正人』で第12回新潮学芸賞受賞。近作に『binran』、『Cesium/Cs-137』などがある。

 

ⒸGilles Pandel

アントワン・ダガタ(Antoine d’Agata, フランス、1961-)
1961年、フランス・マルセイユに生まれる。1980年頃から10年間、ヨーロッパ、中米、アメリカなど世界各地を放浪。1990年、ニューヨークの国際写真センター(ICP)にて写真を学び、ラリー・クラークやナン・ゴールディンのワークショップに参加。1991年、マグナムのニューヨークオフィスにて久保田博二らのアシスタントを務める。1993年、フランスに帰国後、家庭を持ち、生活のため4年程写真を離れるが、その後活動を再開し、展覧会、写真集の出版など活発に作家活動を行っている。2001年、ニエプス賞受賞。2004年、『Insomnia (不眠症)』で第20回東川賞・海外作家賞を受賞。2004年マグナムに参画、2008年より正会員。現在は、コロナ禍の現状をフランス、スペイン、メキシコ、トルコ、オーストリアなどで撮影中。

 
当館ウエブサイト内「動画のページ」にてダガタ氏がYP応募を呼びかける動画がご覧いただけます。
https://www.kmopa.com/?cat=23

 
 
 
 

【関連印刷物&YPデータベース】

❶YP2020小冊子(A5サイズ、32ページ)
各作家の作品数点、選考委員による対談や作品へのコメントを掲載。来館者には無料で配布いたします。

❷YPデータベースには、過去20年余にわたる世界の若手写真家による収蔵作品画像のほか、作家略歴、アーティスト・ ステートメントを掲載しています。作家名、収蔵年、国籍などで検索することができます。 様々な調査・研究の対象としてもご利用いただければ幸いです。
https://kmopa-yp.com

 

【会期中のイベント】

YP2019+YP2020公開レセプション &  アーティスト・トーク
講評:川田喜久治、都築響一、金村 修、細江英公(館長)

YP2018(一昨年)の公開レセプションでの集合写真

自作についてスピーチするトミモとあきな(日本)

 
日程・詳細は当館ウエブサイトにて発表いたします。
参加料:入館料のみ / 定員なし / 要予約 / どなたでもご参加いただけます
会場:清里フォトアートミュージアム・エントランスホール

 

【2021年の展示】

「細江英公の写真:暗箱のなかの劇場」
会期:2021年7月17日(土)〜12月5日(日)(予定)

開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)

入館料:一般800円 学生600円
高校生以下無料 障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料
友の会会員は無料

9月2日よりロバート・フランク作品11点を特別展示

 
K・MoPAは、25年に渡り、写真家の「原点」となる初期作品を収蔵し、青年期の作品の意義と素晴らしさを世に問う活動をしてまいりました。

今回は、当館がもっとも力を注ぐ「ヤング・ポートフォリオ」展に併せて、9月2日(水)~10月5日(月)まで、ロバート・フランクの初期作品(当館蔵)を特別展示いたします。

ロバート・フランクは、世界で最も重要な写真家の一人として、多くの同世代および後進の写真家に影響を与え、世代を問わず熱烈に支持されている写真家です。1947年、フランクは、23歳でスイスからアメリカ・ニューヨークへ移住し、写真家としてのキャリアをスタートさせます。その後、約15年間集中的に写真を撮影しました。そして生地スイスからニューヨークへ渡り、南米やヨーロッパへの撮影旅行を重ねた後、1958年に写真集『アメリカ人(The Americans)』を発表。『アメリカ人』は、かつてない衝撃をもたらし、20世紀の写真を大きく変貌させるきっかけとなりました。本展では、ニューヨークでファッション誌の仕事をしながら撮影していた当時の作品、そして『アメリカ人』掲載の作品など11点を展示いたします。

昨年9月9日に94歳で世を去ったフランクの若き日の作品(当館蔵)を、ぜひご覧ください。

 

2019年度ヤング・ポートフォリオ展/会期:11月8日(日)まで
特別展示:ロバート・フランク初期作品(11点)/会期:9月2日(水)~10月5日(月)

休館日:火曜日
★9/22(火・祝)と11/3日(火・祝)は開館

開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)

 
 
 

2019年度ヤング・ポートフォリオ / Young Portfolio Acquisitions 2019

 
会期:2020年7月1日(水)〜11月8日(日

休館日:8月は無休 / 7、9、10、11月は毎週火曜
★9/22(火・祝)と11/3日(火・祝)は開館

開館時間: 10:00~17:00(入館は16:30まで)
但し8月は10:00~18:00(入館は17:30まで)

※細江英公展は来年に延期いたします。

 
清里フォトアートミュージアムでは、2020年7月1日(水)より11月8日(日)まで「2019年度ヤング・ポートフォリオ」展を開催いたします。
ヤング・ポートフォリオ(YP)とは、当館の理念の一つであり、「写真を通して世界の若者を支援する」ことを目的とする文化貢献活動です。毎年、世界の35歳までの若手写真家の作品を公募し、第一線の写真家による厳正な選考を経て、 若手写真家の「原点」となる貴重な初期作品を購入・収蔵し、後世に残す活動です。 選考された作品を、美術館が永久保存するという、コンテストと異なる性格を持つ本活動は、世界でも他に類をみないものです。(2004年、公益社団法人・日本写真協会より文化振興賞を受賞)
YPは、当館開館の1995年度より継続して行っており、2019年度は第25回となります。これまで世界77カ国から10,508人、137,252点の作品が応募され、そのなかから、46カ国の802人による6,241点の作品を購入いたしました。

■なぜ35歳なのか ー 芸術における青年期の意義を問う
芸術家は、青年期に強い意志と情熱をもって試行錯誤を重ねることにより、才能・資質が高められ、作品のクオリティが磨かれます。研鑽を積んだ作家の多くは、おのずと30代には自己のスタイルを確立し、代表作となる作品を生みだしています。青年の原点とも言うべき作品が、表現の領域を開拓し、歴史を築いてきました。そこには永遠の輝きがあります。

■YPとコンテストの違いは?
作家の世界観や芸術性を表現するポートフォリオ(作品集)となるように、 1枚だけでなく、複数の作品を収蔵することが特徴です。また、通常コンテストの入賞は1度限りですが、YPは、35歳まで何度でも応募することができます。20代から35歳まで何度も収蔵することができれば、作家の成長を見守り、応援することが可能となるからです。

■写真家の成長とともに世界へ伸展するYP
これまで作品を収蔵してきた写真家のなかには、めざましい成長をとげ、土門拳賞や林忠彦賞、木村伊兵衛賞など内外の様々な賞を受賞する写真家が誕生し、また東京造形大学、大阪芸術大学、九州産業大学などで、後進の育成にあたるなど、多くの優秀な写真家が誕生しています。
2014年には、東京都写真美術館にて清里フォトアートミュージアム開館20周年記念展「原点を、永遠に。」展を開催。世界34カ国の197人(YPのみ)による約500点を展示し、世界を俯瞰しながら、写真表現の多様さを展望する展覧会を行いました。さらに、芸術における青年期の意義を問うという理念を明確に表現するべく、2018年、再び東京都写真美術館において、「原点を、永遠に。ー2018ー」を開催いたしました。同展は、当館が収蔵する全写真家の青年期(35歳まで)の写真のみを展示したもので、会期前半は<歴史篇>として撮影年代順(1898年〜2017年)に展示、後半は<作家篇>として、作家名をABC順に展示しました。ヤング・ポートフォリオの作品だけでなく、写真史における重要な作品を多数含むこの展覧会は、一部再構成のうえ、2018年6月、国立台湾美術館に巡回。同館の開館30周年記念特別展「起始・永遠」として開催され、成功裏に終了いたしました。今後も海外への巡回展を企画してまいります。

■YPの見どころ
作品選考は、当館館長のほか、YPの理念にご賛同いただいた現役写真家2名が行います。それぞれの写真家が手がける写真のジャンルは多様ですが、表現意欲の強さ、視点の明確さなどが基準となるため、担当する選考委員によって何らかの“傾向”が生まれるということはありません。若い才能に未来を託す思いで選考し、3名の選考委員全員が合意した作品を収蔵します。特に近年応募の多いロシア、ポーランドなど東欧の国々、アジアでは中国、韓国、台湾、バングラデシュなどです。世界のさまざまな地域の特徴、多様な芸術性、そして、世界の若者が捉えた<いま>を俯瞰して見ることができます。

 

■2019年度ヤング・ポートフォリオ(第25回)データ 
選考委員:川田喜久治、都築響一、細江英公(館長)
作品募集期間:2019年4月15日〜5月15日        
応募者数:152人(世界22カ国より) 応募点数:3,848点        
購入者数:22人(国内10人・海外12人 / 8カ国・二重国籍を含む)
     日本/マレーシア/ベラルーシ/中国/韓国/台湾/ポーランド/ロシア
購入点数:136点(全作品を展示いたします)
●1995年度から2019年度までに作品を収蔵した作家の総数:802人(46カ国)6,241点

 

■2019年度ヤング・ポートフォリオ(以下YP2019)の見どころ
●ヴァーチャルな世界を日常と感じている世代は、現実をどのように捉えているのか
2019年度購入者は1985年から1993年生まれ。物心ついた時からデジタルカメラや携帯で写真を撮って来た世代で、フォトジェニックなモノを捉える感覚が自然に培われ、ヴィジュアルセンスが充満していると3人の選考委員も共通した印象を語りました。
ヴァーチャルな世界が日常に溢れるなか、上野公園で撮影した淵上裕太の〈UENO PARK〉シリーズなど、カメラを介して“キャラクター”ではない生身の人間と対話し、自身の存在を確かめ、世界と向き合った作品が多く見られます。一方で、YPにて4回作品を購入している高島空太は、複数のイメージを組み合わせてスケールの大きな“物語”を生み出し、デジタルでなければできない豊かな創造性とイメージの抽象性が高く評価されました。

淵上裕太《上野公園(いつもは、もっぱら歌舞伎町だ!!)》 2017

高島空太《untitled》2018

 

●自然への異なるアプローチ /  表現の可能性に挑む
井上拓海は、 バイオテクノロジーやヒトゲノム計画が進行する一方で、昆虫が世界で毎年2.5%ずつ減っており、しかも3分の1が絶滅の危機にあることに着目しました。「生物とは何か、生命とは何かを再定義するために何ができるのか」井上は、食物連鎖の底辺にあって、落ち葉や動物の死骸を分解する役割を持つことから、昆虫を生物のシンボル的存在と考え、シリーズ〈Life-e-motion〉を制作。ドライフルーツなどを組み合わせて撮影し、個々の種をみごとに“再生”させています。 本展では、全25枚を展示いたします。
一方、桑迫伽奈の〈arteria〉シリーズからの作品《after the rain》は、インクジェット・プリントに直接刺繍が施されています。刺繍を重ねることによって、作家は、記憶の中の自然の色合い、光や風の表現にたどり着くことができたと言います。本展では、プリントの表裏両面を展示し、繊細な手技をご覧いただきます。
彼らをはじめ多くの作家たちが、自由な発想によりアナログとデジタル両者の特徴を駆使して、作家の記憶や想像上の「目に見えないもの」をどのように写真で表現するか、その可能性に挑んでいます。

井上拓海《Life-e-motion「モモブトオオルリハムシ(Sagra buqueti)」》2018

桑迫伽奈〈arteria〉シリーズより《after the rain》2017

 

●日本へ留学中の作家の活躍
日本国内の美術大学、写真専門学校では、古くから台湾や韓国などから多くの留学生が写真を学んできました。近年では、中国やロシアなどにもその範囲が広がっています。YP2019では、中国出身で、日本国内の美術大学で写真を学ぶRyu Ika(リュウ・イカ)、魏子涵(ギ・シカン)、許力静(キョ・リキセイ)らの作品が購入されました。彼らの持つ独特の色彩感覚や、直観的な視線は、日本の若手にも大きな影響を与えることでしょう。

魏子涵(中国、1994)《異なる世界への入り口》2018

許力静(中国、1986)《Rat》 2010-15

Ryu Ika(中国、1994)《Big Brother is Watching you》2018

 
 

YP2019にて作品を収蔵した作家(ABC順)
Photographers whose work was acquired for the YP2019 (in alphabetical order)

1. ライオネル・ベナン・チャイ・テック・シオン(マレーシア、1992)
Lionel Benang CHAI Teck Siong (Malaysia, 1992)

Serenity, 2017  (全4点収蔵/Total of 4 works acquired.)

 

2. 淵上裕太(日本、1987)
FUCHIKAMI Yuta (Japan, 1987)

上野公園(不忍池のほとり、スイカバー溶けてしまった) UENO PARK (My watermelon ice melted by the side of Shinobazu Pond) 2018      (全8点収蔵/Total of 8works acquired.)

 

3. 波多野祐貴(日本、1985)
HATANO Yuki (Japan, 1985)

Call, 2016-18   (全6点収蔵/Total of 6 works acquired.)

 

4. エリザベス・ハウスト(ロシア、1992)★
Elizabeth HAUST (Russia, 1992)

We are, 2018    (全6点収蔵/Total of 6 works acquired.)

 

5. シェリー・ホアン(台湾、1986)
Sherry HUANG (Taiwan, 1986)

Last Seen (Public Lavatory), 2019  (全2点収蔵/Total of 2 works acquired.)

 

6. イ・ユズ(韓国、1995)
Il Yuzu (Korea, 1995)

語る身 Kataru mi, 2019   (全4点収蔵/Total of 4 works acquired.)

 

7. イイダユキ(日本、1991)
IIDAYUKI (Japan, 1991)

fig FLOWERS, 2016-18   (全7点収蔵/Total of 7 works acquired.)

 

8. 井上拓海(日本、1992)
INOUE Takumi (Japan, 1992)

イシガキフサヒゲカッコウ オス・メス Male and Female of Diplopherusa kitamurai Nakane, 2018  (全25点収蔵/Total of 25 works acquired.)

 

9. アリョーナ・カハノヴィチ(ポーランド/ベラルーシ、1985)★
Alena KAKHANOVICH (Poland/Belarus, 1985)

Plastic World, 2018   (全10点収蔵/Total of 10 works acquired.)

 

10. 桑迫伽奈(日本、1990)
KUWASAKO Kana (Japan, 1990)

シリーズarteriaより after the rain, 2017 (全2点収蔵/Total of 2 works acquired.)(インクジェット・プリントに刺繍)

 

11. ツナ・リー(韓国、1993)
Tuna LEE (Korea, 1993)

Quilting – A part of Memory: Pai Chai School East Building (1916), 2017 (全4点収蔵/Total of 4 works acquired.)

 

12. 森本眞生(日本、1985)
MORIMOTO Maki (Japan, 1985)

わたしの森 My Forest, 2017-18  (全4点収蔵/Total of 4 works acquired.)

 

13. 中間麻衣(日本、1987)
NAKAMA Mai (Japan, 1987)

港ONEWAY, 2017-18 (全7点収蔵/Total of 7 works acquired.)

 

14. Ryu Ika(中国、1994)★
Ryu Ika (China, 1994)

Untitled, 2018 (全6点収蔵/Total of 6 works acquired.)

 

15. 佐藤祐介(日本、1984)
SATO Yusuke (Japan, 1984)

祝福/SHUKUFUKU, 2018  (全4点収蔵/Total of 4 works acquired.)

 

16. 高島空太(日本、1988)★
TAKASHIMA Kuta (Japan, 1988)

untitled, 2018 (全5点収蔵/Total of 5 works acquired.)

 

17. ワン・シンイ(台湾、1985)
WANG Hsin Yi (Taiwan, 1985)

Drag queens/kings in their rooms, 2017-18 (全4点収蔵/Total of 4 works acquired.)

 

18. 魏子涵(中国、1994)
WEI Zihan (China, 1994)

情動の匂い The taste of emotion, 2018 (全4点収蔵/Total of 4 works acquired.)

 

19. 許力静(中国、1986)
XU Lijing (China, 1986)

Rat, 2010-15 (全5点収蔵/Total of 5 works acquired.)

 

20. 山下 裕(日本、1988)
YAMASHITA Yu (Japan, 1988)

代償の地 –七里村– The Land that Paid the Price – Qili Village, 2016-17 (全3点収蔵/Total of 3 works acquired.)

 

21. アガタ・ヴィオチョレック(ポーランド、1992)
Agata WIECZOREK (Poland, 1992)

アガタ・ヴィオチョレックAgata WIECZOREK (Poland, 1992)
Half-nude, 2018

 

22. ピョートル・ズビエルスキ(ポーランド、1987)★
Piotr ZBIERSKI (Poland, 1987)

ピョートル・ズビエルスキ Piotr ZBIERSKI (Poland, 1987)
Untitled from Echoes Shades series, 2017

 
★は過去のYPにおいても作品収蔵した作家を示します。
★indicates photographers whose work has been acquired in previous years.

 
 

【同時展示】過去のYPにて収蔵した作品+3人の選考委員の初期作品各5点

35歳まで何度でも継続して作品を収蔵するのが、YPの大きな特徴です。実際にYP2019にて収蔵した作家全18人のうち、5人が過去のYPでも作品を収蔵しています。彼らがどのようにシリーズを発展させ、視点を深めているのかをご覧いただくため、過去YPで収蔵した作品を同時に展示いたします。どうぞ最新作とあわせてご覧ください。また、3人の選考委員の初期作品、すなわち“選考委員のヤング・ポートフォリオ”作品全15点を同時に展示いたします。

左:選考風景。左から2019年度YP選考委員・川田喜久治氏、細江英公(館長)、都築響一氏

 
川田喜久治(日本、1933)本展出品作品《地図》1960-67年(5点)
1955年、新潮社に入社。1959年、フリーランスとなり、細江英公、東松照明らとともに写真家のセルフエージェンシー「VIVO」に参画(1961年解散)。1965年発表の写真集『地図』は、戦中戦後の日本人の記憶と未来を示唆する作品として、全頁が観音開きというデザインとともに大きな話題を呼び、世に衝撃を与えた。その後の作品ではカタストロフィな世界を展開。1990年代以降はいち早くデジタル技術を駆使し、新たなドキュメンタリー・ヴィジョンを構築している。代表作に『聖なる世界』『ラスト・コスモロジー』『世界劇場』などがある。

都築響一(日本、1956) 本展出品作品《TOKYO STYLE》1991年頃(5点)
「POPEYE」「BRUTUS」誌などで雑誌編集者として活躍後、1993年、東京の人々の生活空間捉えた『TOKYO STYLE』を発表。写真家としての活動を始める。日本各地に点在する秘宝館や奇妙な新興名所を撮影した『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で第23回木村伊兵衛賞受賞。暴走族、デコトラ、パワフルな高齢者など無名の人々への取材を通して、現代の日本を描く。2012年からは、他のメディアとは全く異なる視点から、好奇心の赴くままに取材し、発信する個人雑誌有料メールマガジン『ROADSIDERS’ Weekly』を刊行中。

細江英公(日本、1933) 本展出品作品《おとこと女》1960年(5点)
舞踏家・土方巽を被写体とした「鎌鼬」や、三島由紀夫を被写体とした「薔薇刑」(1963)など、特異な被写体との関係性から紡ぎ出された物語性の高い作品により戦後写真の転換期における中心的な存在となる。東京工芸大学名誉教授。1995年より当館初代館長。2003年、「生涯にわたり写真芸術に多大な貢献をした写真家」として英国王立写真協会より創立150周年記念特別勲章を受章したほか、2010年、文化功労者。2017年、写真家として初めて生前に旭日重光章を受章した。

 
 

【特別展示】

本年は開館25周年を記念し、20世紀の写真に多大な影響を与えた偉大な写真家の青年期(YP=35歳まで)の作品を展示いたします。(下記はすべて当館蔵)

①7月1日(水)〜8月31日(月)ウィリアム・クライン 10点
②9月2日(水)〜10月5日(月) ロバート・フランク 10点
③10月7日(水)〜11月8日(日) アンドレ・ケルテス 10点

 

①ウイリアム・クライン(アメリカ、1928-)初期作品<東京>10点
1956年に発表した写真集『NEW YORK』は、写真表現の既成概念を覆すブレやボケ、荒れた画面で構成され、過激で挑戦的なその手法は、写真界に大きな衝撃を与えました。本展では、クラインが1961年に撮影した<東京>から、ヴィンテージ・プリント10点を特別に展示いたします。小型カメラを手に東京を自在に動き回り、雑然としながらも高度成長期に沸く街の生々しい表情を捉えています。

William Klein 1928年、米・ニューヨークに生まれる。1950年代初め、パリでフェルナン・レジェに油絵を学び、画家を目指していたが、この頃から写真も撮り始める。1954年、アメリカに一時帰国し、ニューヨークを撮影。1956年、写真集『NEW YORK』として発表した。写真表現の既成概念を覆すブレやボケ、荒れた画面で構成されたクラインの過激で 挑戦的な手法は、写真界に大きな衝撃を与え、森山大道や中藤毅彦など多くの日本人写真家にも強い影響を与えた。その後に発表された『ローマ』(1959年)、『モスクワ』(1964年)、『東京』(1964年)を含めた都市の一連の作品は、当時の写真の転換期を象徴すると同時に、現在も多くの写真家に影響を与えている。1965年以降は、映画作家としても活躍している。

 

②ロバート・フランク(スイス、アメリカ、1924-2019)初期作品10点
2019年夏、当館にて開催した個展「ロバート・フランク展 もう一度、写真の話をしないか。」が大きな話題となったロバート・フランク。同展では、当館の収蔵作品より多数のヴィンテージ・プリントと未発表作品を展示いたしました。折しも会期中の9月9日、94歳にて亡くなり、そのニュースは世界中を駆け巡りました。写真や映像を愛する若者のみならず、多くのクリエイターに影響を与えたフランク。最初期のヴィンテージ・プリントを10点展示いたします。

Robert Frank 1924年、スイス・チューリッヒ生まれ。1947年、23歳の時にアメリカ・ニューヨークに移住。雑誌「ハーパーズ・バザー」でファッション写真に従事する一方、南米やヨーロッパ各地への撮影旅行を重ねる。1953年にファッション誌の仕事を辞め、フリーランス写真家となる。1955年・56年に9ヶ月間アメリカ国内の30州を撮影しながら車で旅し、1958年にフランスで写真集『Les Americains』を、翌年アメリカ版『The Americans』を出版。移民者の目から見たアメリカの姿をありのままに写した一連の写真は反アメリカ的であると酷評されたが、フランクによって示された個人の視点に基づく主観的な写真表現は、リー・フリードランダー、ダイアン・アーバス、ゲイリー・ウィノグランドら後進の写真家に大きな影響を与えた。2019年9月、カナダのノバ・スコシア州にて逝去。享年94歳。

 

③アンドレ・ケルテス(ハンガリー、アメリカ、1894-1985)初期作品10点
優れた構図と計算された端正なイメージで知られるケルテス。パリのアーティストたちとの交流のなかで、シュルレアリスムや構成主義の影響を受け、日常の風景でありながら、異世界の佇まいを見せる作品が、多くの写真家に影響を与えました。代表作の多くが35歳までに制作されています。

André Kertész 1894年、ハンガリー・ブダペストに生まれる。幼い頃、グラビア雑誌を目にし、映像に魅せられるが、ブダペスト商業アカデミーを卒業する。写真は独学で学ぶ。第一次世界大戦中、小型カメラを持って従軍し、塹壕の生活を記録するが、戦後再び証券取引所の仕事に従事する。1925年、パリへ移住。多くの芸術家と親交を深めた。翌年より、ケルテスの写真がヨーロッパの主要な雑誌の紙面を飾りはじめ、フォトジャーナリズムの発展へ門戸が開かれた。1936年、ニューヨークに移住、市民権を得る。1963年以降、ニューヨーク近代美術館をはじめ、世界各地で展覧会が開催された。半世紀にわたるケルテスの作品からは、瞬間を凝縮させる鋭い感受性、斬新なデザイン、優しい眼差しが、世界中の人々を豊かな写真表現の世界に導いた。1984年、ネガや関係書類の一切をフランス文化省に寄贈することを決意し、翌年ニューヨークにて没す。

 
 

【関連印刷物&YPデータベース】

❶YP2019小冊子(A5サイズ、32ページ)★来館者には無料にて配布
各作家の作品数点、選考委員による対談や作品へのコメントを掲載。
❷YPデータベースには、過去20年余にわたる世界の若手写真家による収蔵作品画像のほか、作家略歴、アーティスト・ ステートメントを掲載しています。作家名、収蔵年、国籍などで検索することができます。 様々な調査・研究の対象としてもご利用いただければ幸いです。
https://kmopa-yp.com

 
 

【YP2019展示風景を動画配信】

本年4月の緊急事態宣言下、当館は、ホームページを通じて写真の世界に触れ、楽しんでいただけるよう、展覧会場の動画を作成いたしました。宣言が解除された現在も、多くの方々に“ヴァーチャル美術館”をご覧いただけるよう、引き続きホームページにて公開中です。
https://www.kmopa.com/?cat=23

 
 

【会期中のイベント】 

❶YP2019公開レセプション &  アーティスト・トーク *中止となりました*
5月23日(土) 14:00〜16:00 講評:川田喜久治、都築響一、細江英公(館長)
2019年度YPにより作品購入となった作家(YP作家)が出席します。 当日出席するYP作家には、館長・細江英公より作品永久保存証書が授与され、YP作家自身による1分間のトークと、3人の選考委員による講評、その後、交流を行います。若手写真家にとっては、第一線で活躍する選考委員から直接講評を受けられる貴重な機会となります。
公開ですので、ご予約いただければどなたでもご参加いただけます。YP作家にコンセプトや撮影について質問してみたい、という方もぜひどうぞ。海外作家には通訳も入ります。

参加料:入館料のみ / 定員なし / 要予約 / どなたでもご参加いただけます。

YP2018(昨年)の公開レセプションでの集合写真

自作についてスピーチするトミモとあきな(日本)

 

❷ポートフォリオ・レビュー *中止となりました*
3月21日(土)13:00〜16:00  レビュワー: 山本昌男(写真家)
2019年秋、当館にて国内の美術館で初となる個展「手中一滴」を開催した山本昌男。山本氏は、1990年代より欧米にて作品の発表を開始。15ものギャラリーで作品を販売し、アーティストを生業としている数少ない日本人写真家のひとりです。日本では、写真を買う習慣が未だ一般的とは言えない現状のなか、山本のキャリアに興味を持つ若い写真家が増えています。
そこで、K・MoPAでは、初めて写真家によるポートフォリオ・レビューを開催いたします。 作品の発表に向けて、作家としての視点を明確化していくためのアドバイスをはじめ、今後の活動に直結する貴重な示唆を頂けることでしょう。どうぞお気軽にご参加ください。見学のみも可能です。

山本昌男氏

 
対象:ヤング・ポートフォリオへの応募など作品の発表を目指している35歳以下の方
定員:5名 見学は15名まで 要予約
参加料:3,000円、高校生以下1,500円(入館料込み)
見学のみの方は入館料のみ 見学の方の年齢制限はありません。

・お申し込み開始日3月1日(日)午前10時から
・受付は先着順で、メールのみにて受付いたします。info@kmopa.com
・レビューを受ける方は、プリントをお持ちください。最大30枚までとさせていただきます。サイズは問いません。デジタルデータでは受けられませんのでご注意ください。
・作品に関するアーティスト・ステートメントをご用意ください。

●山本昌男
1957年愛知県に生まれ、2007年より山梨県北杜市在住。子どもの頃より、写真や絵画に取り組むが、20代半ばに写真を自身の表現活動に選ぶ。1993年<空の箱>がアメリカのギャラリーによって見出され、以後欧米を活動の拠点としている。 作品は、日本人ならではの精神性、美意識と高く評価され、ニューヨーク・タイムズ他、欧米のアート誌などのメディアへも多数掲載されている。 海外の出版社による写真集多数。2014年、作家活動の集大成となる写真集『小さきもの、沈黙の中で Small Things in Silence』を(青幻舎/Editorial RM共同出版)国内で初めて上梓した。海外のアート・コレクターに多くのファンを持っている。

 

❸フォトグラム・ワークショップ *中止となりました*
5月4日(月・祝)10:00〜15:00  講師: 西村陽一郎(写真家、YP購入作家)
フォトグラムとは、カメラを使わずに暗室内でイメージを作り出す技法です。この技法はカメラやネガを用いる写真よりも古く、1700年代より存在しており、フォトは「光」、グラムは「描かれたもの」を意味します。
実際の作り方ですが、暗室内で、印画紙の上に直接モノを置いて光を当てます。その印画紙を現像すると、上に置いたモノのシルエットが、白黒反転した状態で浮かび上がります。イメージを作りだすという点で言うと、自分がカメラの中に入るような感覚と言えるかもしれません。どんなイメージが浮かび上がるか、自由な発想で「光の画」を作ってみませんか。暗室での作業も体験することができます。

<フォトグラム作例>
ⒸYoichi Nishimura

 
定員:6名 小学校5年生以上 要予約
参加料:1,000円(入館料、材料費込み)

●西村陽一郎
1967年、東京都に生まれる。1997年度、2000年度、2001年度ヤング・ポートフォリオにて全11点の作品を購入している。美学校にて写真を学び、撮影助手を経て1990年にフリーランスとなる。フォトグラムやスキャングラムなどの技法で、植物や昆虫、羽、水、ヌードなどをモチーフとした作品を活発に発表している。写真集に『LIFE』や『青い花』などがある。

 
 

【YP2020作品募集】

2020年度ヤング・ポートフォリオ(第26回)
今できる限りのものを見せてほしい。
     今の挑戦が未来のあなたを強くする。

2020年度選考委員:都築響一、金村 修、細江英公(館長)
●Web登録受付期間 & 応募作品受付期間: 2020年4月15日〜5月31日
●応募要項の概要 ・応募資格は35歳までを上限とします。(1985年1月1日以降に生まれた方)
・既発表・未発表を問いません。他のコンテストへの応募作品・受賞作品も応募可能です。
・作品の表現、技法は問いませんが、永久コレクションのため、長期保存が可能な技法であること。
・選考された作品は、1点につき3万円以上で購入します。

●詳しい応募要項は:www.kmopa.com/yp_entry

山本昌男「手中一滴」展

Yamamoto Masao: Bonsai – Microcosms Macrocosms

会期:2019年10月5日(土) ~ 12月8日(日)

1990年代より欧米を中心に活躍し、国際的に高く評価されている写真家・山本昌男(1957)。

自然の神秘性を追求し、人と自然が生み出す究極の美に挑んだ軌跡をたどる。

デビュー作から最新の<盆栽>シリーズまで、約170点による国内美術館初の展示。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清里フォトアートミュージアムでは、10月5日(土)から12月8日(日)まで、山本昌男「手中一滴」展を開催いたします。

写真家・山本昌男(1957)は、主に欧米を拠点に活躍している写真家です。モノクロームを基調とした静謐で深い表現性を湛えた独特のスタイルと、日本的で精神性の高い美しさは、継続して国際的な評価を受けています。

デビュー作の<空の箱>・<中空>は、独特の質感を持つ小さなサイズの写真を、アンティークの革鞄に、旅の思い出ように詰め込んだ展示や、絵を描くように壁に展示するなど、実験的なインスタレーション作品でした。その後山本は、一点一点の写真が深い心の対話を促す作風へと変化していきます。その根底には常に「人間は自然のほんの一部分であり、一体化した存在」という理念があり、身近な動物や植物、風景等、日常誰もが目にする自然のありさまや、見過ごされそうな小さなものを大切にすくいあげる作品を発表します。その写真は、超絶的といわれるモノクロ技法により、繊細な息づかいと緊張感を孕んだ美へと醸造されています。近作の<盆栽>シリーズは、小さな鉢のなかで、人の手と水によってのみ生きる盆栽を、八ヶ岳や富士山麓の雄大な風景の中に置いた写真です。

展覧会のタイトル「手中一滴」とは、山本による造語で、「一滴の露にも宇宙が宿る」という禅の教えに基づいています。山本の写真も盆栽も、人が自然と向き合う中に、人の手から絞り出されるように生まれた作品です。そこには人と作品と自然が織りなす究極の美を追求した世界があります。

本展では、デビュー作の<空の箱>・<中空>から<川><浄(しずか)>そして最新作の<盆栽>シリーズまで約170点を作家によるインスタレーションによって展示し、自然の神秘性を追い続けた山本の30年の軌跡をたどります。

展覧会概要

デビュー作<空の箱>

山本は、愛知県蒲郡市の代々建築に携わる家に生まれ、 “ものつくり”の精神と、豊かな自然に囲まれて育ちます。 自ずと日常の中に美を見出し、写真や絵画などの表現活動に取り組むようになりますが、20代半ばに写真を自身の表現手段に選びます。

山本が、海外で活動を始めるきっかけとなったのは、1993年に発表した作品<空の箱>・<中空>シリーズでした。手のひらサイズの小さな写真を、旅の思い出のようにアンティークの革鞄に詰め込んだ展示や、絵を描くように壁に展示するなど 、写真によって空間全体を構成する実験的なインスタレーションは、 新鮮な印象をもたらしました。同時に、一枚一枚の写真が持つ古写真のような色合いと質感は、圧倒的な存在感を放っていました。日本人ならではの精神性、美意識を湛えたそれらの作品は、 すぐにアメリカのギャラリーよって見出され、欧米での発表へと繋がっていきました。

展示風景:Craig Krull Gallery, 2005

山本昌男《空の箱 #10》1994年 ⒸYamamoto Masao

山本昌男《空の箱 #36》1994年 ⒸYamamoto Masao

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の展開と、影響を与えた考え方 

やがて山本は、集合的なインスタレーションから、一点一点をフレームに入れ、より深くイメージとの心の対話を誘う作品へと変化していきました。「人間は、自然のほんの一部分であり、一体化した存在」という信念のもと、身近な動物や植物、風景など、日常誰もが目にする自然や、見過ごされそうな小さなもの、些細な出来事を大切にすくい上げていく作品を次々と発表。超絶的と言われるモノクロ技法により、繊細な息づかいと緊張感を孕んだ作品へと醸成させていったのです。

山本に大きな影響を与えたのが、「積極的受動性」という 禅の教えでした。「世界(自然)と一体化する安らかな感覚を知ったとき、森羅万象に対する敬意と謙虚な思いが自ずと生まれ、地球上も宇宙も含む全ての感性の中に包み込まれる。」山本が写真を撮る際に研ぎ澄まそうとしたこの境地への憧れが、洋の東西に関わらず多くの人が山本の写真に惹かれる理由かもしれません。

山本昌男《中空 #838》2001年 ⒸYamamoto Masao

山本昌男《中空 #1159》2004年 ⒸYamamoto Masao

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山本昌男《川 #1504 》 2007年 ⒸYamamoto Masao

 

 

山本昌男《川 #1592》2010年 ⒸYamamoto Masao

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最新作<盆栽>

2012年、山本は、森で命を終えた木の根をスタジオで撮影し、それらの“形相”と向き合ったシリーズ<浄(しずか)>を発表します。闇を背景に、写真家の創り出す光のみによって 再び命を吹き込まれ、静かに語り始める枯れた木の根 ー そこでは山本の静謐で詩的なイメージの世界がより深まっていきました。

山本昌男《浄 #3045》2018年 ⒸYamamoto Masao

山本昌男《浄 #3038》2014年 ⒸYamamoto Masao

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山本昌男《浄 #3041 “Free at last” 》2014年 ⒸYamamoto Masao

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに、山本は、それまでの説明的な部分を削ぎ落としたイメージから一転して、雄大な実景の中に盆栽を置いて撮影するスタイルへと移行していきました。山本は、盆栽の魅力について「盆栽と同じ空間で時間を過ごすうちに、盆栽が場にもたらす極めて強い緊張感がやがて感動に変わり、そして心に平和がもたらされた」と言います。小さな鉢の中で、人の手と水によってのみ生きる盆栽。盆栽は、それ自身が盆栽師の手によって完成された世界を持つ芸術作品であり、それを自身の作品として写真に表現することは、非常に大きな挑戦でした。

一般的に、盆栽は、庭園内や床の間にて鑑賞されるものですが、山本は盆栽を八ヶ岳の“大舞台”に連れ出し、星空や雪山とともに、また夜明けの富士を抱く風景の中に置くなど、丹念に作り込まれた造作と雄大な実景とを一枚のフィルムに収めて行きました。優れた撮影技術に支えられた盆栽像は、時に荒々しく、また緊迫感を孕み、かつてない盆栽によるシュルレアリスムを提示するものと言えるでしょう。

山本昌男《盆栽 #4001》2018年 ⒸYamamoto Masao

山本昌男《盆栽 #4017》2018年 ⒸYamamoto Masao

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山本昌男《盆栽 #4027》2019年 ⒸYamamoto Masao

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手中一滴」とは

曹洞宗の開祖道元は著書『正法眼蔵』に「一滴の露にも全宇宙が宿る」と記しました。また、禅には一滴の水も無駄にしないための「一滴水」という言葉も存在します。一方、本展タイトルの「手中一滴」とは、山本による造語です。「盆栽の命のもととなるのは一滴の水。手の中からぎゅっと絞り出すものという点では、盆栽も写真も同じ。どちらも自然と向き合いながら、人の手が造り上げた“世界”なのだから。」長年にわたり身近な自然をモチーフとしてきた写真家が、盆栽のなかに、人と自然の関係が織りなす究極の美を見出したことから<盆栽>シリーズは生まれました。そして、小さな盆栽が象徴する小宇宙に大宇宙が凝縮された世界 ー その本質を「手中一滴」という独自の言葉に表したのです。

 

展示作品(シリーズ)

<空の箱>・・・・・・・・約100点

<中空>・・・・・・・・・19点

<川>・・・・・・・・・・23点

<浄(しずか)>・・・・・13点

<盆栽> ・・・・・・・・・15点

全約170点

山本昌男略歴

山本昌男

1957年、愛知県蒲郡市に生まれる。祖父は寺の鐘撞堂の彫刻を請け負うほどの名大工。代々建築に携わる家系に生まれ、”ものつくり”が日常の環境で育つ。それ故、美を追求することが自分の生きる意味であると感覚的に掴んでいた。16歳でカメラを購入して撮影を始める。その後、油絵にも取り組むが、最終的な表現手段として写真を選ぶ。1993年、写真作品の発表を始めるとすぐに、アメリカより来日したディーラーによりアメリカ各地の画廊へ作品が紹介され、1994年サンフランシスコでの初個展を皮切りに、欧米各地での発表を活発に行っている。作品は、ゼラチン・シルバー・プリント技法が中心。古写真のような色合いと質感は、日本人ならではの精神性、美意識と高く 評価され、ニューヨーク・タイムズ他、欧米のアート誌などのメディアへも多数掲載されている。2007年、横浜市より山梨県北杜市に移住。アメリカのNazraeli Pressより写真集『空の箱』(1998)、『中空』(2001)、『わかばのみち』(2002)、『オオミズアオ』(2003)、『ゑ』(2005)などを刊行。2014年、作家活動40年の集大成となる写真集『小さきもの、沈黙の中で Small Things in Silence』を青幻舎/スペインのEditorial RMとの共同出版にて制作し、日本国内にて初めて出版した。2018年、モスクワのマルチメディアアート美術館にて開催された「Yamamoto Masao. Photography」展には、2ヵ月間に約48万人が訪れた。海外のアート・コレクターに多くのファンを持つ。本展開催と同時に、盆栽作品の写真集『手中一滴』(T&M Projects)が発刊される。

 

 

見どころ

世界を魅了する“盆栽”とは

秋山 実氏

山本が撮影した盆栽は、すべて盆栽師・秋山実(1979)氏によるものです。秋山氏は、当館の位置する北杜市に隣接する韮崎市にて「秋山盆栽園」の代表を務め、史上最年少で盆栽界最高峰の内閣総理大臣賞の受賞をはじめ、数々の賞を受賞。内外でのデモンストレーションやワークショップを通して盆栽の普及・発展に尽力する若手盆栽芸術家です。

盆栽とは、鉢の中で植物を育てることですが、鉢の中に盆栽師の美意識と感性を加えられたものが芸術品として完成された盆栽となります。その極意は、自然よりも優れた理想の世界を創り出すこと。本展会期中、①山本の<盆栽>作品を前に、作り手と写真家、盆栽をめぐる二人の表現者がトークを行う「アーティスト・トーク」②実際に盆栽を作る「盆栽ワークショップ」を開催いたします。詳細は次ページをご覧ください。

ドキュメンタリー上映:山本作品に対する欧米のギャラリー、コレクターの評価

山本昌男は、欧米の15ものギャラリーにて作品を販売し、アーティストを生業としている数少ない日本人写真家のひとりです。欧米のギャラリーは、山本をどのような作家と評価し、コレクターは山本作品のどのようなところに魅了されてプリントを購入しているのか。日本では、写真をはじめ、アートを買う習慣が未だ一般的なものとはなっていない現状のなか、 山本のキャリアに興味を持つ日本の若い写真家たちが増えています。山本の作品を取り扱うギャラリーやコレクターを取材した本ドキュメンタリーから、アートと生活が密着した欧米の活発な写真文化を垣間見ることができるでしょう。館内にて上映いたします。(約10分)

会期中の無料デー

  • 11月8日(木)・・・八ヶ岳の日
  • 11月20日(日)・・・山梨県民の日

 

会期中のイベント&ワークショップ

アーティスト・トーク+盆栽ワークショップ

日時10月26日(土)

トーク13:00~13:50 ワークショップ14:00~16:00

なぜ<盆栽>の撮影に至ったのかをはじめ、盆栽の作り手と写真家、二人の表現者が盆栽の奥深い魅力をめぐってトークを展開します。ワークショップでは、実際に盆栽の作り方を秋山氏にご指導いただきます。

出演:山本昌男(トークのみ)、秋山 実

トーク参加費:入館料のみ / 友の会・会員は無料 / 予約不要

盆栽ワークショップ参加費:3000円(入館料、材料費を含む)/ 要予約 定員10名

●<ご参考>オリーブを題材とした盆栽の制作過程
(ワークショップ当日はオリーブまたは桜を使用します)

オリーブの苗木

正面を決め、不要な枝を切ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

針金をかけて、枝を曲げつけ

鉢を変え、土を入れて苔張りをします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完成です。

 

 

 

 

 

 

 

 

プラチナ・プリント・ワークショップ

プラチナ・プリントは、古典技法のひとつで、優美な色調と高い保存性が特徴です。当館では、<永遠のプラチナ・プリント>を基本理念のひとつに掲げており、作品の収集だけでなく、技法の継承を目指して、毎年プラチナ・プリント・ワークショップを開催しています。フィルムを使用し、手作りの印画紙に写真を焼き付け、現像するという写真の原点を体験することで、写真の新しい見方や、表現世界の広がりを得ることができるでしょう。「暗室作業は初めて」という方も「作品制作に取り入れたい」という方にも、細江賢治講師が丁寧に指導します。

まずは当館収蔵のプラチナ・プリント作品をご覧いただきます

スタジオにてポートレイトを撮影。プリント用のネガをつくります。

水彩画用紙にスポンジハケで感光乳剤を塗布します。

プリントが出来上がりました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日時11月9~10日(土・日、2日間) *今回は都合により中止となりました*

*当館が収蔵するプラチナ・プリント作品の鑑賞、館内スタジオでのポートレイト撮影を含む

師:細江賢治(写真家)

参加費:30,000円(入館料を含む)友の会・会員は27,000円 定員8名

 

次回展示

「2019年度ヤング・ポートフォリオ」 

会期:2020年3月20日(金・祝)~6月21日(日)

 

 

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