当館では2011年度、2012年度ヤング・ポートフォリオの選考委員をおつとめいただいた鬼海弘雄氏。近年闘病されておりましたが、残念ながら本日10月19日、逝去されました。享年75歳。
1945年、山形県寒河江市に生まれ、高校卒業後、山形県職員となるも20歳で退職。法政大学にて哲学者の福田定良氏に学ぶ。ダイアン・アーバスの写真と出会い、人間の内奥へ視線を向けた作品に衝撃を受け、表現者を目指した鬼海氏は、トラック運転手、造船場工員、遠洋マグロ漁船、暗室マンなど様々な職に就いた後、1973年より浅草寺境内でのポートレイト撮影〈PERSONA〉シリーズを始めます。それから45年。浅草寺での撮影を編み直した最新刊『PERSONA最終章2005-2018』そして『SHANTI persona in india』が昨年上梓されたばかりでした。
鬼海氏はまた、独特の世界観を表す“言葉力”でも知られ、YP選考時にも「写真というものは一瞬に撮るものだけど、どれだけのパトスと時間と愛情とをかけて撮ったかが見えるもの。」「誰も評価してくれなくても、自分の歩幅を見つけて歩いていくことが大切。自分をもう少し煮ろ。鍋でぐつぐつ、ぐつぐつとね。」「個人で写真をやっていると小舟に乗って漕いでいるようなもの。舳先ばかりを見ていると方向感覚を間違う。遠く北斗七星を見て、時代に流されない羅針盤を持っていないと。」また、フォトジャーナリストの作品についても「人間を考える足がかりとして重要。写真芸術は温室の中に入っている観葉植物のようなものだけではない。人の世界はどうなっているかという問題が同レベルで論じられるべき。」と、鬼海氏の残された言葉には、色褪せることのない本質が深く横たわり、その存在感に惹き付けられます。
当館の活動に深く共感いただき、評価をいただいたことに心より感謝申し上げます。心よりご冥福をお祈りいたします。