8月5日(土)の午後1時より、写真展「鉄道愛」のアーティスト・トーク「今日は鉄道愛の日」を開催いたしました。
トップ・バッターはジオラマ作家・鯉江充さんによるジオラマ撮影会。会場の展示室には開催時間の30分前から熱心なファンが待機し、家族連れを含め約40名が集まりました。
ジオラマ製作歴が約60年の鯉江さん。2016年から製作を開始したという展示中のジオラマ作品(1/48スケール)は、1930年代アメリカの鉄道写真を参考に作り上げたもの。「材料は100円均一の店で買ったボール紙、ヒノキの角材のみ。それにレーザー加工機があれば何でも作れます」との言葉に会場がどよめきます。
作品の地面から3.5センチの低い位置にカメラを構えて撮ると臨場感が出るという鯉江さんのアドバイスを受けて、さまざまな場所から撮影開始。ズームより28ミリの短焦点レンズが適しているとのこと。意外なことに、一眼レフのカメラよりスマホの方が上手く撮れるとの声も。小学生くらいの女の子がお父さんとスマホの画面を確認して、「やっぱり機関車は白黒で撮った方がリアルだね」とささやく声が聞こえました。
展覧会作家の滝口忠雄さん(右)も鯉江さん(左)と撮影にトライ
続いては午後2時より、木漏れ日のさすガーデンテラスで、独自の視点で鉄道の幾何学的な美しさを捉える写真家、山下大祐さんと副館長・瀬戸正人の対談を行ないました。
鉄道写真家 山下大祐さん
「鉄道愛」展 山下大祐さんの展示スペース
特徴的な断面の形をした飯山線のトンネルに始まり、新幹線の流線形をした先端部分を撮影したさまざまな作品が映しだされます。「新幹線の先頭部分を撮っていると、考え抜かれ、編み出された形の一つ一つに意味がある。一本の曲線でもいとおしいと思うんですよ」という山下さん。「こうしてフォルムに特化してみると複雑でエロティックなんだなぁ」とは瀬戸副館長の感想です。「ふだんは観ているようで観ていないことに気づかされた」というコメントもありました。
瀬戸正人副館長
「鉄道愛」展 / 山下大祐さんの展示
最近の山下さんが追っているのは、駅の片隅などに保存されている蒸気機関車。全国約400カ所にある蒸気機関車とその周囲の人々を写した、ちょっと切ない情景です。未来を象徴するような新幹線と、過去の遺物となりつつある蒸気機関車。そのどちらにも、山下さんの「鉄道愛」が感じられました。
JR清里駅前 C56清掃イベントで参加者を撮影する山下さん(2023年7月9日)
ラストを飾ったのは、国鉄の機関助士時代から、当時すでに現役から消えつつあった蒸気機関車を求め、全国各地で撮影を続けた写真家、滝口忠雄さんです。インタビュアーは、滝口さんが「鉄道マンたちの青春劇場」を連載中の雑誌「鉄道と旅」編集長の真柄智充さん。滝口さんの作品を観ながら、息の合ったトークが交わされました。
滝口忠雄さん(左) / 真柄智充さん(右)
「他の鉄道写真家と決定的に違うのは、滝口さんが運転台の中にも入らせてもらい、実際に機関士が働く現場を観て撮ったこと。それが、こうした写真の良さにつながっていると思います」と真柄さんが言えば、「機関車は人間が動かすものですから、人を入れて撮らないと機械が生きてこない。なるたけ人間を入れて撮ろうとしてきました」と滝口さん。タブレット交換や、機関士時代の厳しい運転試験の話など、現場を知る国鉄マンならではの逸話が次々に。トークのあと、「滝口さんの訥々とした語り口に、本当に鉄道が好きなことが伝わってきました」との感想が寄せられました。
元国鉄電気機関士 滝口忠雄さん
「鉄道愛」展 / 滝口忠雄さんの展示
「鉄道愛」展 / 滝口忠雄さんの展示
雑誌『旅と鉄道』真柄智充さん
のべ100名余をお迎えした本イベント。ご来場のみなさま、誠にありがとうございました。
本トークの通し映像を「鉄道愛」展会期中の9月24日(日)まで、当館ガレリアにて上映中です。ぜひご覧ください。*9月は火曜日休館